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千葉地方裁判所佐倉支部 昭和48年(ワ)22号 判決

主文

一、被告古関一雄は原告に対し別紙物件目録記載の各土地(ただし三、六の土地は除く。)につき、昭和二七年三月一日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

二、被告山倉一城は原告に対し別紙抵当権設定登記目録記載の各土地(ただし三、六の土地は除く。)に対する各抵当権設定登記および別紙仮登記目録一、二、三、四各記載の各土地(ただし三、六の土地は除く。)に対する仮登記の抹消登記手続をせよ。

三、原告の被告古関一雄、被告山倉一城に対するその余の請求及び被告井上節子に対する請求をいずれも棄却する。

四、訴訟費用は、原告と被告井上節子との間では全部原告の負担とし、原告と被告古関一雄ならびに被告山倉一城との間では原告に生じた費用を五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告古関一雄が三、被告山倉一城が二の各割合の負担とする。

事実

第一、当事者の申立て

一、原告

1. 被告古関一雄は原告に対し、別紙物件目録記載の各土地につき昭和二七年三月一日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

2. 被告山倉一城は原告に対し別紙抵当権設定登記目録記載の各土地に対する各抵当権設定登記ならびに別紙仮登記目録一、二、三、四各記載の各土地に対する各仮登記の抹消登記手続をせよ。

3. 被告井上節子は原告に対し別紙仮登記目録五記載の各土地に対する各仮登記の抹消登記手続をせよ。

4. 訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決

二、被告ら

1. 原告の請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

1. 被告古関一雄は別紙物件目録記載の各土地(以下本件各土地という。)の所有名義人である。

2. 被告山倉一城は本件各土地につき別紙抵当権設定登記目録記載の各土地に対する各抵当権設定登記ならびに別紙仮登記目録一ないし四記載の各土地に対する各仮登記を有している。

3. 被告井上節子は別紙仮登記目録五記載の各土地の各仮登記を有している。

4. 原告は(本件各土地(ただし三、六を除く)をおそくとも昭和二七年三月一日以後、また、)本件土地のうち三および六の土地については昭和三九年三月三一日から所有の意思をもって占有してきたものであって、時効により取得した。その事情は以下のとおりである。

(一)  原告は古関儀三郎・同なつ夫婦の長男であり、被告古関一雄は右夫婦の次男古関亥之助・同とり夫婦の長男である。儀三郎は昭和一六年に死亡し、原告は古関家の財産をすべて家督相続した。本件各土地(ただし三、六は除く。)および成田市竜台字上中島二、一九〇番の農地(以下上中島の農地という)は古関家において小作していた農地であり、儀三郎死亡後は原告と亥之助はともに軍隊にいたため儀三郎の妻なつが耕作していた。

(二)  亥之助は昭和二〇年に原告よりも先に復員したため本来原告に対してなされるべき自作農創設特別措置法による農地解放による右小作地の売渡しはすべて亥之助に対してなされた。しかるに亥之助は農業を嫌い、売渡しを受けた右小作地を荒廃させたため昭和二六年一二月親族会議を開き、席上亥之助の希望により右土地はすべて原告が所有し耕作することに決められ、そして同月末ころ亥之助と原告との間において、右各土地はすべて原告が贈与により譲り受け、農耕は翌二七年の春耕から原告において引継ぐ旨の合意が成立した。右合意により平穏に亥之助から引渡を受け、原告は遅くとも昭和二七年三月一日から本件各土地(ただし三、六は除く。)および上中島の農地を所有の意思をもって耕作占有してきたものである。原告は昭和二七年以降現在にいたるまで右土地の固定資産税、土地改良区賦課金を過去の滞納分も含めて支払ってきた。

(三)  原告と亥之助とは、訴外根本甚三、同鈴木吉松の両名を代理人として同年五月ころ前記贈与契約について農地法三条所定の許可申請を豊住村農業委員会を通じて千葉県知事宛に行ったが、暫時許可が留保されたが昭和二九年一〇月ころ千葉県知事から右贈与契約の許可がなされ、右農業委員会に進達されたものの、一方の申請人である亥之助がこれより先の同年一〇月二日死亡したために、原告に対する許可証の交付がなされなかった。しかし、原告は右許可のあったことは知らされていた。

(四)  原告は本件土地(三、六は除く。)を遅くとも昭和二七年三月一日以降その所有権限あるものとして耕作して占有してきたものであるから、昭和四七年三月一日をもって原告は本件各土地(三、六は除く。)を時効取得した。

5. なお、本件土地のうち、三および六の土地はいずれも昭和三九年三月一日の土地改良法にもとづく土地改良事業により亥之助の相続人である被告古関一雄のために右上中島の農地と交換分合がなされた土地であった。原告は右上中島の土地も他の土地と同様に、昭和二六年一二月末ころ亥之助から贈与を受け、昭和二七年三月一日から所有の意思をもって、耕作して占有を開始し、昭和三九年三月三一日交換分合の際本件土地のうち三の土地は根本洋から、六の土地は根本甚三から引渡しを受け、引続き耕作して占有してきたものであるから、右三、六の土地も昭和四七年三月一日をもって時効取得した。

6. 被告古関一雄は本件土地(三、六は除く。)および前記上中島の農地を亥之助から相続したものである。

7. よって、原告は、被告らに対し請求の趣旨記載の判決を求める。

二、請求原因に対する被告らの答弁

1. 被告古関一雄の答弁

(一)  請求原因1の事実は認める。

(二)  同4の(一)の事実のうち、原告が古関儀三郎・同なつ夫婦の長男であり、被告古関一雄は右夫婦の次男古関亥之助・同とり夫婦の長男であることは認める。同4の(二)、(三)の事実中、亥之助が昭和二九年一〇月二日死亡したことは認めるが、原告と亥之助との贈与契約、原告が亥之助から本件土地(三、六は除く。)および上中島の農地の引渡しを受けて所有の意思をもって平穏に占有を開始したことはいずれも否認する。原告は権限なく亥之助夫婦を追い出したものであるし、農地法所定の許可がないかぎり自主占有とはなりえない。同4の(四)の事実は否認する。同5の事実のうち贈与契約は否認し、その余の事実は認める。同6の事実は認める。同7は争う。

2. 被告山倉一城の答弁

請求原因2の事実は認める。原告の本件土地の時効取得は否認する。

3. 被告井上節子の答弁

請求原因3の事実は認める。原告のその余の主張は不知。

三、被告古関一雄の抗弁

亥之助夫婦は昭和二二年七月結婚し、原告の現住所地の建物に居住して農業を営み、本件各土地(三、六は除く。)および上中島の農地を耕作してきたが、原告は昭和二三年ころ刑務所を出所して昭和二六年三月ころ亥之助夫婦に対し強暴なる行為をなして同人らを右住居から追出し、自から同所に居住し、かつ亥之助から本件各土地(三、六は除く。)および上中島の農地の占有を奪ったものであるから原告は平穏善意による占有ではない。

四、被告古関一雄の抗弁に対する認否

否認する。

第三、証拠<略>。

理由

一、別紙物件目録記載の本件各土地が被告古関一雄の所有名義であること、被告山倉一城が本件各土地につき別紙抵当権設定登記目録記載の各土地に対する各抵当権設定登記ならびに別紙仮登記目録一ないし四記載の各土地に対する各仮登記を有していること、被告井上節子は別紙仮登記目録五記載の各土地に対する各仮登記を有していることは、当事者間に争いがない。

二、原告が古関儀三郎・同なつ夫婦の長男であり、被告古関一雄は右夫婦の次男古関亥之助・同とり夫婦の長男であることは、原告と被告古関一雄との間において争いのないところであり、原告と他の当事者間においても弁論の全趣旨によりこれを認める。そして、<証拠>によれば亥之助は昭和二九年一〇月二日死亡したことが認められ、そして<証拠>によれば、本件土地のうち三および六の土地を除くその余の土地を亥之助が昭和二二年一二月二日自作農創設特別措置法による売渡しにより取得したことおよび同人の死亡により被告古関一雄が右土地を相続により取得したことが認められ右認定に反する証拠はない。

三、さらに、<証拠>によれば、被告古関一雄名義になっていた前記上中島の農地は昭和三九年三月三一日本件各土地のうちの三、六の土地と土地改良法一〇二条の規定により交換分合されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

四、本件各土地のうち三および六の土地を除くその余の土地を原告が遅くとも昭和二七年三月一日から現在まで耕作して、占有してきたことは、<証拠>により認められ、右認定に反する証拠はない。また、本件土地のうち三および六の土地と交換分合された前記上中島農地も同じく遅くとも昭和二七年三月一日から原告において耕作占有し続け、右交換分合後は右三および六の土地を占有耕作してきたもので、原告と被告古関一雄との間で争いがなく、原告とその余の被告間では前掲証拠によりこれを認める。

五、ところで、本件各土地のうち三および六の土地を除くその余の土地を原告が耕作して占有しはじめた経緯は次に認定するとおりである。

<証拠>を総合すれば以下の事実が認定される。

原告と亥之助の父親儀三郎が昭和一六年ころ死亡したときそのころ原告は生家を離れて農業には従事しておらず、亥之助と母なつとが農業を営んでいた。原告も亥之助もその後召集を受けたが、亥之助の方が終戦後ほどなく先に復員して生家に帰り、農業に従事したので、古関家が小作していた農地は農地解放のさい亥之助に対して売渡された。原告は昭和二二年ころ復員したが、窃盗事件をおこしたため受刑したこともあって、昭和二五年ころ生家へ帰ってきた。それまではいわゆる古関家の農地はほとんど亥之助およびその妻とりが耕作していた。しかし、原告は古関家の長男であることから原告が古関家の農業を継ぐこととなり、原告は本件各土地のうち三および六の土地を除くその余の土地および右三および六の土地が交換分合される前の上中島の農地の引渡しを受けたものである。もっとも、原告が右の各土地の引渡しを亥之助から受けることについては、原告と亥之助との間に争いがあり、亥之助としては必ずしも納得の上ではなかった。しかし結局のところ、亥之助は右各土地を原告に引渡し、原告は遅くとも昭和二七年三月一日から右各土地をもって農業を営むこととなり、現在に至っている。

そして、原告は亥之助から引渡しを受けた土地を自己の所有物として耕作してきたものである。

右認定に反する証人古関とりの証言は措信しない。

六、さらに、本件三および六の土地はもとそれぞれ根本洋および根本甚三の所有であったところ、昭和三九年三月三一日土地改良法にもとづき原告が亥之助から引渡しを受けた土地とが交換分合され、上中島の農地の名義人が被告古関一雄名義となっていたので、同被告のために交換分合されたことは、原告と被告古関一雄間においては争いがなく、<証拠>により、これを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

七、以上の認定事実からして、原告が古関家の農業を引継ぎ少なくとも本件土地のうち三、六を除く土地については遅くとも昭和二七年三月一日から今日まで占有して耕作してきたことは明らかであるから、その占有は自主占有といえるから、その時効取得は認められるべきである。なお、右自主占有が平穏・公然・善意でないことについてはこれを立証するに足りる証拠はない。

ところで、本件土地のうち三、六の土地は前記<証拠>によれば成田市農業委員会による交換分合計画による交換分合により被告古関一雄が取得したものであるが、一般に右の効果は、農業委員会が交換分合計画を定め、それを都道府県知事が認可し、その認可が公告されることにより、土地改良法上の効果として生ずるものであって(同法九七条、九八条、一〇六条)、ある者に対して農地を取得させるべきなんらかの理由がある場合はもちろん、たといなんらの理由がない場合であっても、同人は土地改良法上の効果として権利を取得するものといわねばならない。そしてその結果もたらされる不都合は別個の問題としなければならない。右の理由からすれば、被告古関一雄は昭和三八年三月三一日土地改良法一〇二条により交換分合前の土地とことなるところの本件土地のうち三、六の土地の所有権を取得したものといわざるをえない。そうすると右三、六の土地の時効取得は右時点以後の事実関係によって決せられねばならない。けだし、交換分合の前後により土地自体は別個のものであるからして、取得時効の占有の同一性が失なわれるし、さらには交換分合により新たな権利関係が生じたことにより交換分合後の土地の占有権限の有無、善意、悪意、過失の有無などにつき新たな問題を生ずるからである。

そうすると、原告において右三、六の土地につき昭和三六年三月三一日から自主占有を開始したとしても、その自主占有につき過失がなかったことが証明されないかぎり、それ以後二〇年の期間を経なければ取得時効は完成しないところ、現時点まで右二〇年の期間は経過していないから、原告は右三、六の土地を時効取得しえないし、のみならず、右過失のなかった点についての立証もないから一〇年の時効取得も認められない。

八、以上のごとく、原告は本件土地のうち三、六を除くその余の土地につき昭和四七年三月一日をもって二〇年の時効取得によりその所有権を取得したものであるが、三、六の土地については時効取得は認められない。そうすると、原告の被告らに対する請求のうち、三、六の土地に関する部分は理由がないから棄却し、その余の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項但書を適用して、主文のとおり判決する。

物件目録

一、所在 成田市竜台字坂下沖

地番 六壱五番

地目 田

地積 五壱九平方メートル

二、所在 同所

地番 六壱六番壱

地目 畑

地積 六八七平方メートル

三、所在 同所

地番 六参八番

地目 田

地積 参四七平方メートル

四、所在 同市竜台字花下

地番 六七〇番壱

地目 畑

地積 六〇壱平方メートル

五、所在 同市竜台字仲船戸

地番 壱八弐参番

地目 畑

地積 壱〇弐壱平方メートル

六、所在 同市竜台字上根埜原

地番 壱八九四番

地目 田

地積 壱〇弐壱平方メートル

七、所在 同所

地番 壱九四四番弐

地目 田

地積 弐弐四平方メートル

八、所在 同所

地番 壱九四五番

地目 田

地積 壱〇弐壱平方メートル

九、所在 同所

地番 壱九四六番

地目 田

地積 壱〇弐壱平方メートル

一〇、所在 同所

地番 壱九四七番

地目 田

地積 壱〇弐壱平方メートル

一一、所在 同所

地番 壱九四八番

地目 田

地積 壱〇弐壱平方メートル

一二、所在 同所

地番 壱九五四番

地目 田

地積 壱〇弐壱平方メートル

一三、所在 同市竜台字下根埜原

地番 六壱六番弐

地目 田

地積 壱五八平方メートル

抵当権設定登記目録

一、別紙物件目録一、二、三、五、六、七、一〇、一一、一二、一三記載の各土地につきなされた千葉地方法務局成田出張所昭和四六年八月壱弐日受付第壱〇八九九号の抵当権設定登記

二、同目録四、八、九記載の各土地につきなされた同出張所同年五月壱七日受付第六四六八号の抵当権設定登記

仮登記目録

一、前記別紙物件目録四、八、九記載の各土地につきなされた千葉地方法務局成田出張所昭和四六年五月壱七日受付第六四六九号の条件付所有権移転仮登記

二、同目録一、二、三、五、六、七、一〇、一一、一二、一三記載の各土地につきなされた同出張所同年八月六日受付第壱〇七〇五号の所有権移転請求権仮登記

三、同目録一、二、三、五、六、七、一〇、一一、一二、一三記載の各土地につきなされた同出張所受付同年八月壱弐日受付第壱〇九〇〇号の条件付所有権移転仮登記

四、同目録四、八、九記載の各土地につきなされた同出張所同年五月壱七日受付第六四七〇号の停止条件付賃借権仮登記

(以上被告山倉一城分)

五、同目録三、六記載の各土地につきなされた同出張所昭和四弐年壱弐月壱九日受付第九弐〇八号の停止条件付所有権移転仮登記

(以上被告井上節子分)

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